菊の花咲く


職人さんが陶芸修行の最初に学ぶ作業の一つに「土練り」があります。作品の制作に入る前に土を十分に練りなおし、粘度を均一にして、中に含まれる少量の空気を抜く。力のいる作業ですが、作品の仕上がりに関わる大事な基本の作業です。

土練りが十分に行われていないと、作品に歪みが生じたり、焼成中の破損の原因になったりするのだそうです。

一般に教室などで使われる陶芸用の市販の粘土は、すでに土練機(どれんき)という機械であらかじめ捏ねてあるもので、実際に生徒さんが土練の作業から携わるということは少なくなりました。

うちの工房でも、真空土練機というさらに高度な機械を通して十分に練った土を作品製作や教室の生徒さん用にも利用しているので、「土練り」の作業の機会は減っているようです。

それでも、新しく大きな作品に取り組む前には、静かに想いをこめて土を練る。それは今でも一つの基本の工程として大事に守られているようです。

先日、中学生の長男が父親のそばで、土練りの作業を初体験しました。

腰を落とし、軽やかに土塊を捏ねるお手本の手さばきは鮮やかで、ほーっと見惚けてしまう魅力があります。

リズミカルに動く手の中で重い土塊があっという間に形を変え、やがて滑らかな流線型の捏ね跡が層を成す。

この美しい練り跡が重なり合った菊の花弁に似ていることからこの作業を「菊練り」というのだそうです。

やがて、惜しげなく菊花をつぶして土を滑らかな砲弾型にまとめ上げる。わずか数分のプロの技でした。

父に倣って、重い土塊に手を掛けた長男でしたが、なかなかその重さが思うように扱えず、いびつな皺を増やすばかり。

長い時間かかってようやく砲弾型まで漕ぎ着けたところで、師匠のチェック。

切り糸を使って、砲弾の真ん中をスパッと切断。

切断面を見ると、苦心の作業にも関わらず小さな空気の層がいくつも見える。

見本の方も切断してみると、こちらは見事に均一なきれいな断面が見える。

父親にとっては当たり前の作業でも、長い年月を掛けて身に着けた技というものは、大したものだなぁと感嘆することしきりでした。

「土練り3年」という言葉があるそうです。

どんなことでも、最初の一番基本の修行が長い鍛錬を必要とする大事な作業であるということを、長男はわずか一日の入門で心に刻んだことと思います。

長男が手にした土塊に、鮮やかな菊の花弁が花開く日。

いつか来るその日が待ち遠しく、心ほころぶ想いがします。